Penn カウンセリング修士体験談(その1)




僕が1998年秋に入学し1999年夏に卒業したUniversity of Pennsylvania カウンセリング修士過程 (Psychological Services) について体験談を主に書きます。



日米に限らず、臨床心理/カウンセリングの院についての情報は本当に不足している。例えば日本の学生が何のつても無しに○×大学の院のオリエンテーション、実習、講師について知りたい時どれだけの情報があるだろうか。インターネット上等、院についての情報は増えているが、まだ今ではアメリカの院の体験談は貴重だと思う。

日本で臨床をやりたいのならやはり日本の院が強い。自分の生まれ育った国を離れるというのは本当にハンデがあるし、日本の院でネットワークすることは就職や開業に役立つだろう。ただし、今現在の日本の大学院が理論・実践のバランスよく臨床トレーンングを提供しているとは思えない。「臨床は自分でやり、院は研究と学会発表の為の場」というのが殆どなのではないか。これは複数の日本の院生に会って意見を聞き、他でもいろいろ調べた上での率直な感想。もちろん優秀な講師との出会いは日本の院でも多いと思う。(みなさん色々教えてください)

アメリカの院も玉石混合なのは変わりない。しかし、定評の有るプログラムが何十個も見つかるので選択肢が多いと思います。沢山の院がしのぎを削っていて、教育制度が確立されているので。また、講師は臨床の経験豊富な人が教えている時が多いし、セラピストやカウンセラーが職として定着しているのでトレーニングは現実的にならざるを得ないということも大きいだろう。

お約束:僕はアメリカの大学/院の支持者なので公平な意見ではない。またこれはあくまで僕が趣味で書いている個人的な体験記であり大学の意見は必ずしも反映していません。



Pennのマスターについて

ペンシルバニア大学教育学部院 (Graduate School of Education/GSE) はフィラデルフィアとペンシルバニア州の教育のリーダー達を送り出す所のひとつです。 臨床関係では Psychological Services(M.S.Ed./事実上カウンセリング修士)があり僕はここを約一年で卒業した。( Boston University など、一年で終わるカウンセリングのコースは有るが、大抵のところは2ー3年かかる。)日本人は僕を含めて二人いたが、もう一人の人はトライリンガルで英語はネイティブであり、唯一ノンネイティブである僕は言葉でとても苦労することになる。英語については後述するが、ここで生き残るのには相当な英語力と根気が必要。要求される言語そのもののレベルが高い。

卒業することはどれくらい大変か?

臨床と理論を同時に短期間で勉強するのはどの国であれ一日に10回ぐらい叫んでしまうくらい大変だ。「簡単でした」等とはただの一度も聞いたことがないので、その点は心配しなくてよい。

例えば入学オリエンテーションの時、ファンツーゾ教授が、「このプログラムは博士過程よりもきついよ。」と警告。そしてとどめに、「君達は瀬戸物の花瓶のようなものだ。僕達(講師)は花瓶の中に高いプレッシャーをかけて弱い部分をこわす(!!)役目をしているんだ。そして君達は(僕達と一緒に)そのひびを直していくのだよ。」これは決して脅しでも強調でもなかった。(涙) 僕の場合、院にいた時は、睡眠は4ー5時間(これでも院生としては多いほうだ)、精神/体共に半病人であった。リーディングは一日に50ー100ページ、レポートは週に3ー10枚。これに月に1回以上のプレゼンテーション、週8-10時間の実習、クラス、テストが加わる。文系の院は大抵ライティングに力を入れているので、レポートを書くのは本当に辛かった。これに加えて二学期には一学期のことが全部テスト範囲だという魔のComprehensive examination があった。Comp があっても授業はちゃんとあった。

レポートやプレゼンテーションでは複数の、例えば5ー10の関係しているが異なった質問に答え、資料を分析し、そして独創的な意見を述べなければならない。これを3ー5ページや5分にまとめる。学部で良くやったような10ー15枚を使ってすべての質問に答えるようなことは出来ない。学部では身逃してもらえた細かい文法の誤りも厳しくチェックされた。


クラスの内容についてざっと書いてみる。

Education 687.01 Psychological Practice (Fall 1998)

臨床の理論と実習。実際に研修先で働きながらセオリーをやる。(一年のプログラムだから、Penn では初めの学期、二学期両方で研修がある)クラスは30人とちょっとであった。ロール・プレイやディスカッションをするのにちょうど良い人数だ、とは講師ドクター・スタンリーの弁。インテーク、倫理、自己分析などを4つのレポート、3冊の教科書を読むこと、そして講師の体験談と実際のケースについてのロール・プレイ、ディスカッションを通して臨床の基礎を学ぶ。これに加えて週2時間のゼミがある。これは博士過程の3ー6年生一人がリーダーになって6ー7人の修士の学生と一緒にグループ・スーパービジョンをする。沢山のカウンセラーのたまごからのアドバイスがもらえるのに加え、様々な研修先の体験談が参考になった。みんな本当に研修で苦労していた。

Dr. Jeanne Stanley について:

ドクター・スタンリーについては感謝を持たずして語れない。
もしこのプログラムに応募したい人がいるのなら、まずドクター・スタンリーに会って見ることをお進めする。このプログラムのディレクターであり、院生達のメンターでもある彼女ほど本当に人の為を思い行動し、知性と知識を持ち、とことんまで人の面倒をみる人はいない。また僕の知る限り、最高の臨床家の一人でもある。僕はPennの院生というよりはJeanne's student であったし、これからもそうであると思う。すべての人を尊敬し、しかも公平に扱う彼女に教わったことを嬉しく思う。
2003年補足:ドクター・スタンリーは他のプログラムのディレクターになられた。しかし今でも Psychological Services のクラスを最低一つは教えられている。Psychological Services の学生でなくとも、GSEの学生は彼女のクラスを履修する事が出来ます。


(Fall 1998)

僕の学生生活の中で最もつらかった科目の一つは Dr. Paul McDermott の Psychological Assessment (ED684) だ。この授業では各種のテスト(知能テスト等)の有効性を判断するために、統計データをどういって読み解くかを主に習う。Dr. McDermott は教育心理の統計学で知られ、講義では数学用語連発でとても英語を喋っているようには聞こえない。今思うに、この科目を理解する為には統計をやっておく他、数学アレルギーを直しておくことが必要だった。幾何、三角法、微分・積分等の教科書(英語)に目を通して数学用語と基礎的は高等数学に少し慣れた今(このクラスをとってから2年後!)やっとノートを読み返す気力ができた。Prerequisites には学部レベルの統計と心理テストの知識が必要とシラバスにあるが、とんでもない。おそらくこの数学/心理学者は(大学レベルの)幾何、三角法、微分・積分とその応用はどの学生でも知っていて当然だと思っているのではないか。僕はクラスメイトと教授に泣き付いて説明を受けようやくパスした。しかし、この授業で散々な目に会って無かったら数学を高校のレベルからやり直すなんて考えなかっただろう。数学的思考法を叩きこまれた授業であった。



(Fall 1998)

Psychology of Families and Schools (Educ 585) Dr. Howard Stevenson. ドクター・スティーブンソンからはアフリカ系アメリカ人の治療と家族療法を教わった。Families and Schools とあるのに殆ど学校のことはカバーしなかった。システムズ理論の時に少しテキストを読んだ程度。個人的には、一番僕の臨床に役だっているものの一つがシステムズ理論。ロール・プレイや実際のセッションのビデオを見ての討論が多く、 Psychological Practice に次いで実践的要素が強い科目であった。アフリカ系アメリカ人のクライエント達は僕に沢山の事を教えてくれた。



つづく 
11/14/00 更新、11/30/03 更新 


カウンセラーのたまご